ChatGPT の無料プランに出ている広告は、これまで回答の下に置かれた1枚のカードだった。押せば広告主のサイトへ飛ぶ。検索広告と同じ形である。

2026年9月16日、OpenAIはその行き先を差し替える試験を始めた。Sponsored Agents。広告をタップすると外部サイトへ移動する代わりに、その広告主が用意したAIとの会話がChatGPTの中で開く。ダイニングテーブルの広告なら、部屋の寸法に収まるか、何人掛けか、この仕上げはどう手入れするのかを、その場で聞ける。答えるのは売る側のAIである。

名前が確認できている参加ブランドは2社ある。家具通販のWayfairと、住宅の修理・リフォームの業者を紹介するAngi(旧Angie's List、ナスダック上場)だ。どちらも買う前に条件を言葉で説明する種類の買い物で、会話との相性がいい領域である。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はOpenAIの発表(2026年9月16日)と、同日のThe Register、広告業界メディアPPC Landの報道、およびAngiが同日に出したプレスリリースです。本記事公開時点で約40時間が経過しています。Sponsored Agentsの試験対象は米国の一部の広告主に限られ、日本での提供は発表されていません。金額はすべて米ドルで、報じられている年換算の値です。

何が発表されたのか──広告をタップすると別の会話が開く

9月16日の発表は、ひとつの新機能の話ではない。動いたのは3か所である。

01
見せ方:Sponsored Agents(試験)

広告から、その広告主が用意したAIとの会話が開く。会話にはラベルが付き、ChatGPT自身の回答とも、利用者がそれまで続けていた会話とも別のものとして扱われる。話が進んだところで広告主のサイトへ進むリンクをたどれる。対象は米国の一部の広告主のみ。

02
作り方:広告管理画面に生成機能

広告の文面と画像を、着地ページと配信目的から機械が提案する。広告主が中身を確認・編集してから採用する形で、勝手に出稿されるわけではない。ChatGPT上のプラグインから、文章で指示して広告を作ったり数字を見たりもできる。

03
買い方:HubSpotとShopifyの連携

OpenAIはHubSpot(顧客管理ソフト)を初のCRMパートナー、Shopify(ネット通販の出店基盤)を初のEC=電子商取引パートナーと位置づけた。どちらも9月16日から使える。

3つを並べると、これが広告フォーマットの追加ではなく事業の作り直しだと分かる。広告の見せ方、広告の作り方、広告の買い方が、同じ日に同じ方向へ動いている。

9月16日 OpenAIが発表した日
米国のみ Sponsored Agentsの試験対象
2社 名前が確認できた参加ブランド(Wayfair・Angi)
一言でまとめると──「広告の行き先が、広告主のサイトから、広告主のAIとの会話に変わりました」。押した先で待っているのはページではなく、売る側の話し相手です。

Sponsored Agentsとは何か──これまでのChatGPT広告との違い

ChatGPTの広告は2026年2月9日に米国で始まった。形はずっと同じで、回答の下に「スポンサー」と明示したカードが出る。当て先を決めているのはその会話の話題で、サイトを横断して集めた追跡プロフィールではない。広告はChatGPTの回答そのものを動かさないとも説明されてきた。広告の仕組みは応答モデルと別系統で動き、広告主が回答の順位や内容に手を入れることはできないという建て付けである。

比べる点従来の広告カードSponsored Agents
押した先広告主のサイト(外部へ移動)ChatGPTの中に開く別の会話
話す相手いない(表示だけ)広告主が用意したAI
表示の扱いスポンサー表示つきで回答と分離ラベルつき。回答とも元の会話とも別扱い
会話のあと広告主のサイトへ進むリンクをたどれる
対象日本を含む複数の国で配信中米国の一部の広告主のみ(試験)

違いは一点に集約できる。これまでの広告は「表示」で、今回のものは「応対」である。表示は見るか見ないかで終わるが、応対は始まると続きがある。質問を足せば答えが返り、条件を言えば候補が絞られる。買い物の相談として見れば親切な設計だし、広告として見れば、滞在時間と情報量の両方を稼げる設計でもある。

ⓘ ここでいう「エージェント」とは
エージェント(agent)は、指示を受けて自分で手順を踏むAIのことです。ここでは「広告主の側が用意した、自社の商品について答える担当AI」を指します。ChatGPTという1つのAIが広告主の言葉を代弁するのではなく、ChatGPTの画面の中に別の担当者の窓が開く、という理解が近いです。

広告主に渡るのは何か──書かれていることと、書かれていないこと

読者にとって一番肝心なのはここで、しかも現時点で一番はっきりしないのもここだ。

従来の線引きは明快だった。OpenAIは、広告主にチャットの中身・履歴・メモリ・個人情報を渡さない、会話を広告主に売ることもないと説明してきた。広告を当てる手がかりはその会話の話題や広告主が指定した条件などで、会話そのものが広告主から見えるわけではない。広告主が受け取るのは、表示回数やクリック数といった集計された数字だとされてきた。広告が入った当初の整理はChatGPTに広告が来た日にまとめてある。

Sponsored Agentsは、この線を1本またぐ。利用者が自分から広告主のAIに話しかける形になるので、そこで書いたことは、話しかけた相手に向けて書いたことになる。「ChatGPT本体の回答とも元の会話とも別扱い」という説明は、読み替えれば「ここから先は相手側の会話」という区切りの宣言でもある。

では、その会話の記録から広告主が何を受け取るのか。今回の発表はそこを書いていない。広告業界メディアのPPC Landは、記録から広告主が得るもの、エージェントを動かすモデル、指示文を誰が書くのか、料金の形のいずれも示されていないと指摘している。調査会社eMarketerも、得られる示唆の範囲をOpenAIに確かめるようブランド側へ勧めている。つまり「広告主に渡る範囲」は※観測の段階にある。

⚠ 会話が始まったら、2つだけ確かめてください
1つは、いま話している相手が誰かです。ラベルが付いているかを見て、ChatGPTの回答なのか広告主のAIなのかを区別してください。もう1つは、書く内容です。住所・電話番号・予算・家族構成のような情報は、その広告主に伝わる前提で書くのが安全です。通常のChatGPTの会話と同じつもりで書くと、渡す先が入れ替わっていることに気づけません。

広告が出るプランと国──日本で使う人にどう関係するか

まず広告そのものが出る範囲を押さえておきたい。ChatGPTの広告は、ログイン済みの成人利用者のうち無料プランとGoに表示される。Plus・Pro・Business・Enterprise・Eduには出ない。

プラン広告の表示
無料(Free)出る
Go出る
Plus / Pro出ない
Business / Enterprise / Edu出ない

国については、日本はすでにChatGPT広告の配信対象に入っている。一方でSponsored Agentsは米国の一部の広告主に限った試験で、日本での提供は発表されていない。したがって今日の時点で日本の画面が変わるわけではない。変わったのは、広告の行き着く先をページから会話へ置き換える設計が、実地で試され始めたという事実のほうだ。

ⓘ 広告を見たくない場合
有料のPlusやProに上げると広告は表示されません。無料のまま使う場合も、広告の個人化を切る、表示された広告を消す、広告に使われたデータを削除するといった設定は用意されています。

ついでに言えば、会話の中に広告を入れないと明言している会社もある。Anthropicは2026年2月4日、Claudeに広告を入れないと表明した。定額と法人向けで稼ぐという立場である。月20ドルという同じ値札の隣で、稼ぎ方の設計が分かれている。無料でどこまで使えるかを重く見るならChatGPT側に利があり、会話の中に商売が混ざらないことを重く見るなら、その差はそのまま選ぶ理由になる。

HubSpotとShopifyが同時に繋がった理由

Sponsored Agentsの派手さに隠れがちだが、事業として重いのは同日の連携2本である。広告の在庫を増やす話ではなく、出稿する側の手間を削る話だからだ。

2026年2月9日

米国で広告の配信開始 ログイン済みの成人利用者のうち、無料プランとGoに表示する形で始まった。

2026年9月3日

ShopifyアプリストアにOpenAI提供のアプリが掲載 「ChatGPT Ads」の名前で、利用料は無料。まず米国の加盟店が対象。

2026年9月16日

Sponsored Agentsの試験と2つの連携を公表 HubSpotを初のCRMパートナー、Shopifyを初のECパートナーとし、同日から利用できるとした。

2026年9月23日

Shopifyアプリの国際展開の予定日 ChatGPT広告が提供されている国の加盟店へ広げるとされている。どの国が対象になるかは公表されていない。

HubSpotに繋がると、広告を作る・成績を見る・反応した人を追いかけるまでが顧客管理ソフトの中で終わる。Shopifyに繋がると、店の商品情報がそのまま広告の材料になり、成果の計測も店側の仕組みで足りる。どちらにも共通しているのは、広告を出すために覚えることを減らしている点だ。出稿の敷居が下がれば広告の数は増える。数が増えれば、無料で使う人の画面に出る広告も増える。

数字で見ると、広告事業はまだ小さい。OpenAIの広告の年換算売上は2026年8月時点で約10億ドルと報じられている。2026年通年の目標として投資家向けに示された数字は25億ドルで、いまの水準の2.5倍である。一方でOpenAI全社の年換算売上は、8月13日のBloombergの報道で400億ドル超とされた。広告は全社のおよそ2.5%にとどまる。前回この事業を取り上げた記事でも触れたとおり、目標との距離はまだ大きい。

OpenAIの広告事業の規模を全社の売上と比べた横棒グラフ。棒の長さは金額に比例している。広告の年換算売上が約10億ドル、2026年通年の広告売上目標が25億ドル、OpenAI全社の年換算売上が400億ドル超で、広告の棒は全社の棒の40分の1ほどの長さしかない。
💡 小さいからこそ動きが速い
全社売上の2.5%という比率は、裏を返せば「ここを伸ばす余地がまだ大きい」という社内事情でもあります。だから形が短い間隔で変わります。会話する広告が出てきたのも、広告の形を固めるより先に、どの形が当たるかを試している段階だからだと読めます。

編集部の見立て

Editor's Opinion

この試験でいちばん大きいのは、広告の形ではなく「相手が入れ替わる瞬間」が画面の中に生まれたことだと考えます。これまで広告をタップすると、ブラウザが切り替わり、見た目も文体も変わり、自分が広告主の土地へ移ったことが体で分かりました。会話が続く形だと、その境目がラベル1つになります。ラベルは付きますが、そこで視線が止まるかどうかは別の話です。

とはいえ、これを一方的に悪い設計とは見ていません。家具の寸法や修繕の見積もりのように、売る側しか答えを持っていない質問は確かにあります。そのとき、検索結果を5つ開いて回るより、売る側に直接聞けたほうが早いのは事実です。WayfairとAngiが最初に手を挙げたのは、まさにその種類の買い物を扱っているからでしょう。

読者への実務的な影響は、おそらく「ChatGPTの答えを疑う場所が1つ増える」という形で出てきます。これまでは、回答は中立で、その下に広告があるという二層でした。これからは、回答・広告・広告主との会話の三層になります。三層目で聞いた内容は、売る側の言い分です。役に立つ言い分であっても、比較の材料としては片側だけのものです。

そして、広告主に何が渡るのかが明示されていない点は、公表を待つしかないところです。PPC LandとeMarketerがそろって同じ欠落を指摘しているので、業界側からの問い合わせで早めに整理される可能性はあります。それが出るまでは、あの会話に書き込む内容は、問い合わせフォームに書く内容と同じ扱いにしておくのが無理のない構えだと思います。

まとめ

2026年9月16日、OpenAIがChatGPTの広告に「Sponsored Agents」を加える試験を始めました。広告をタップすると外部サイトへ移動する代わりに、その広告主が用意したAIとの会話がChatGPTの中に開きます。会話にはラベルが付き、ChatGPT自身の回答とも、それまで続けていた会話とも別のものとして扱われます。対象は米国の一部の広告主で、日本での提供は発表されていません。

名前が確認できている参加ブランドは、家具通販のWayfairと住宅サービスのAngiの2社です。同じ日に、広告の文面と画像を提案する機能が管理画面へ入り、HubSpotが初のCRMパートナー、Shopifyが初のECパートナーとして接続されました。Shopifyのアプリは9月23日に、ChatGPT広告が提供されている国へ広げる予定とされています。

広告が表示されるのは、ログイン済み成人の無料プランとGoだけで、Plus・Pro・Business・Enterprise・Eduには出ません。日本はすでに配信対象の国に入っています。広告主にチャットの中身・履歴・メモリを渡さないという従来の説明は変わっていませんが、広告主のAIとの会話で自分が書いたことについて、相手が何を受け取るのかは今回の発表に書かれていません(※観測)。

OpenAIの広告の年換算売上は2026年8月時点で約10億ドル、2026年通年の目標は25億ドルと報じられています。全社の年換算売上400億ドル超に対して、まだ2.5%ほどの大きさです。

次に何かが分かるのは9月23日だ。ただしそこで動くのはSponsored Agentsではなく、広告を出す側の道具のほうである。Shopifyの管理画面に「ChatGPT Ads」のアプリが現れる国の一覧に日本が入っていれば、会話する広告がこちらへ届くまでの距離も、そのぶん短く見積もっていい。